システム開発で利用されている契約形態のひとつに請負契約があります。今回は請負契約の内容やメリットとデメリット、準委任契約との違いなどを解説します。システム開発を請負契約で依頼する際には注意点が4つあるため、検討している方はぜひ参考にしてください。
請負契約は顧客から受注してシステム開発すること
請負契約は、システム開発によく利用される契約形態のひとつです。システム開発における請負契約は、システム開発を依頼、あるいは外注したい顧客(企業や個人)から開発会社が開発案件を受注する際に利用されます。
インターネットの普及によって請負契約を利用したIT関連のシステム開発が増え、最近ではホームページ制作やデザイン制作などにも利用されることが一般的になりました。
さらに、フリーランスとして働く方の増加や外注が簡単にできるツールが整ってきたこともあり、企業では従業員を雇わずにほかの企業やフリーランスなどにアウトソーシングすることが多くなっています。そのような背景があり、請負契約という契約形態はよく利用されるのです。
請負契約と準委任契約のそれぞれの特徴
システム開発に利用される契約形態には「準委任契約」もあります。準委任契約と請負契約とでは、「何を目的とするのか」、「何に重きを置くのか」といった点で大きな違いがあるのです。
請負契約とは受注側(開発会社)が成果物を完成させる約束をするものであるのに対し、準委任契約は依頼された仕事を行うことを目的としています。準委任契約の場合は成果を求められる訳ではないことを理解しておきましょう。
契約形態ごとに向いている開発要件や内容が異なるため、システム開発を依頼する場合は開発内容に合った契約形態を選択するようにしてください。柔軟に契約形態を変えることで、トラブル発生時や仕様変更があった場合でもより対応しやすくなるでしょう。
請負契約に向いている開発要件と内容
請負契約では、受注側が納期と要件を満たす成果物を完成させれば良いため、契約後は基本的に受注側である開発会社にお任せの状態になります。そのため仕様変更が難しいという特徴があり、複雑な制作物(成果物)には不向きでしょう。
請負契約に向いているものは、Webサイトの制作やシンプルなシステム開発です。Webサイトやシンプルなシステム開発であれば、あらかじめ契約前に仕様を決めやすく、スケジュールどおりに開発を進めやすいため請負契約に適しています。
準委任契約に向いている開発要件と内容
準委任契約は企業やフリーランスに仕事をしてもらうことが目的の契約で、報酬の決め方が特に定められていません。例えばシステム開発を準委任契約で依頼する場合、エンジニアなどに支払う報酬を1時間単位の時給で決めても良いのです。
請負契約とは違い、開発途中で仕様変更があった場合でも報酬を変える必要がないという特徴があります。そのため、複雑なシステムや大規模なシステム開発のように要件定義が難しく、開発途中で仕様変更やトラブルが起きやすいものには準委任契約を利用すると良いでしょう。企業によっては、繁忙期のみ準委任契約を利用して労働力を確保することもあります。
システム開発の請負契約における3つのメリット
システム開発で請負契約を結ぶメリットには、求めていたクオリティの成果物が入手しやすいこと、人件費を含めた開発コストを抑えやすいこと、成果物の完成後に報酬が発生することなどが挙げられます。
そのほかにもシステム開発の受注側は、請負契約にすることで納期やシステムの要件さえ満たして完成させれば良いため、発注側に縛られない働き方ができるのです。
システム開発の契約形態には請負契約がよく利用されているため、実際にシステム開発の依頼や外注ではどのようなメリットがあるのかを把握しておきましょう。
求めていたクオリティの成果物が入手しやすい
システム開発を請負契約で発注する場合、納期と開発内容などの要件を明確に決めた上で契約します。この契約を締結すると受注側である開発会社は、成果物の完成義務に加えて瑕疵担保責任などを負うのが一般的です。
開発会社がシステム開発を上手くできなかった場合や契約違反が起きない限り、請負契約で外注すれば基本的に求めている成果物が入手できるでしょう。ただしシステム開発では、開発前に想定していた工程どおりに進められないことや、要件を満足できない場合が少なくありません。開発期間が延長してしまう可能性があることを覚えておきましょう。
人件費を含めた開発コストを抑えやすい
請負契約でシステム開発を外注した場合、人件費をはじめとする開発コストは基本的に受注側(開発会社)が負担することになります。システム開発を外注する側は、成果物の完成に対する報酬だけを支払えば良いため、無駄な開発コストを削減できるのです。
ただし契約内容によっては、外注する側でも一部の開発コストを負担する場合があるかもしれません。トラブルを回避するために、契約前には双方で認識の相違がないかを確認しましょう。
成果物の完成後に報酬が発生する(契約内容による)
契約内容にもよりますが、請負契約では成果物の完成後にはじめて報酬が発生します。つまり、受注会社(開発会社)がシステムを完成させることで初めて報酬が発生するため、原則として報酬を後払いにできるのです。
請負契約でシステム開発を依頼することで、報酬の支払い期日がシステム完成後になる場合が多く、資金繰りが厳しい会社でも資金面の融通が利きやすいメリットがあります。
ただし契約内容によっては前払い、あるいは中間金などに変更することも可能であるため、開発会社と報酬の支払い日を明確にする必要があるでしょう。
システム開発の請負契約における3つのデメリット
システム開発を請負契約で外注するデメリットとしては、発注後の仕様変更が難しいこと、外注によって社内エンジニアの育成が難しくなること、リスク対策として開発会社から高額請求される可能性があることなどが挙げられます。
これらのデメリットを把握した上で、システム開発を請負契約で外注するかどうかを検討してください。契約前にできるだけ詳細まで明確にしておくことでリスク対策もできます。
発注後の仕様変更が難しい
請負契約を交わした後は、基本的に受注側(開発会社)にお任せの状態になるため、仕様変更が難しいことがデメリットのひとつです。開発会社は納期までに要件を満たした(契約どおりの)成果物を完成させれば良いため、たとえ成果物に不備や欠点などが存在してもそのまま納品されてしまいます。
開発会社に依頼するシステム開発について、契約前にできるだけ不備や不足などの問題がないかを確認する必要があるでしょう。
外注により社内エンジニアを育てられない
請負契約でシステム開発を外注すると、基本的に発注した側は納期までに完成の連絡を受けるだけという場合が多いでしょう。実際にシステムを開発していくのは全て受注側(開発会社)であるため、社内エンジニアを育成したい企業は、そもそも外注すること自体を検討し直すほうが良いかもしれません。
IT業界やプログラミングなどに関係のない企業であれば、社内エンジニアの育成を考慮せずに外注しても良いでしょう。
リスク対策として開発会社から高額請求される可能性がある
請負契約でシステム開発を外注すると、受注側(開発会社)からリスク対策として高額の費用を請求される可能性があるため注意が必要です。請負契約では成果物の完成に対して報酬が支払われるため、人件費や開発ツールの導入などの開発コストは、基本的に開発会社が全て負担します。
さらに瑕疵担保責任を負うことになるため、もしも納品したシステムに欠陥(瑕疵)があると、開発会社は補修や損害賠償の責を負う場合があるのです。開発会社はこのようなリスクを抱えた上でシステム開発をする必要があり、報酬額の見積もり時にリスク対策として法外な費用を請求してくるかもしれません。
請負契約でシステム開発を外注する場合には、報酬額が適切かどうかを調べた上で契約しましょう。
システム開発会社に依頼、契約する際の5つの注意点
請負契約に限らず、システム開発を開発会社に依頼して契約する際には、報酬の支払いに関するタイミングや方法について確認しましょう。また、契約内容の認識がお互いに一致しているかどうかを確認することや、仕様変更やトラブル発生時の対応方法をあらかじめ明確にしておくことも大事です。
そして成果物の検収が行われるかどうかを確認することや、著作権や知的財産権の帰属については契約書に明文化することなどの注意点があります。特にシステム開発は開発期間が長く、高額な報酬の取引になることが多いため、これら5つの点に注意することでトラブル回避につなげられます。
報酬の支払いタイミング、支払い方法を確認する
システム開発の外注においては、報酬の支払に関するタイミングや方法について必ず確認してください。契約内容や開発会社によっては報酬の一部を前払いにしたり、開発段階に応じて中間金を支払ったりする場合があるからです。
請負契約の場合、基本的に報酬は後払いですが、契約内容を変更することで支払いのタイミングを変更できます。お互いに報酬支払いの時期や方法について検討し、同意の上で契約書に明記するようにしましょう。
契約内容の認識が一致しているかを確認する
どのような契約ごとにも、お互いの認識にズレが生じてトラブルに発展することは珍しくありません。場合によっては法廷闘争にまで発展し、取引関係が完全に破綻することも考えられます。
お互いに精神的あるいは金銭的なダメージを被る場合もあるため、可能な限りトラブルを回避して円滑に取引が進められるように、契約内容の認識に双方のズレがないかを確認すると良いでしょう。
仕様変更やトラブル発生時の対応方法を明確にする
請負契約には仕様変更が難しいというデメリットがあるため、システム開発を請負契約で依頼する場合は、あらかじめ仕様変更があった際の対応方法について開発会社と相談しておくことが大切です。
小さな仕様変更であれば開発スケジュールに影響を及ぼすこともありませんが、大幅な仕様変更だとどうしても大きな影響が出てくるでしょう。また開発スケジュールに影響が出るだけでなく、開発会社が負担する費用が膨大になる可能性もあります。
仕様変更を要求することによってトラブルとなる場合も考えられるため、あらかじめ契約前に仕様変更の対応を明確にしておく必要があるのです。また、開発会社が想定どおりに開発できなくなるケースもあるかもしれません。そのような場合の対応方法も双方で相談して決めておきましょう。
成果物の検収が行われるかを確認する
システム開発を依頼して契約する前には、納品方法と検収について明確にしておきましょう。システム開発の場合、成果物はシステムそのものになるため、一般的な案件の納品方法とは異なる場合があるからです。
また、請負契約の場合は開発会社が瑕疵担保責任を負うため、どのくらいの期間それを負うのか、不具合に関する連絡をした場合にどのような対応をするのかを、開発会社と相談して契約書に明記してください。
著作権や知的財産権の帰属を契約書に明文化する
システム開発を依頼して契約する際には、必ず著作権や知的財産権の帰属に関する条項を契約書に明記してください。システム開発における著作権や知的財産権は、基本的に作成側である開発会社に帰属されます。
そのため、発注側がその権利を保持したいと思っても、それが契約書に明記されていない場合には、開発会社から納品されたシステムを他社に再販しようとしてもできなくなるのです。これではシステム開発を外注する側としては非常に不便でしょう。
トラブルを回避するためにも、著作権と知的財産権の扱いについて契約書に明記しておくことが大事なのです。
まとめ
システム開発を請負契約で依頼して契約する場合には、まず開発要件や内容が請負契約に適しているかを確認してください。請負契約では仕様変更が難しく、変更できたとしても開発コストなどの費用が増える可能性があるため注意しなければなりません。
しかし、仕様変更がない場合は契約した報酬を支払うだけで良いため、あらかじめ報酬額を把握しやすいことに加え、後払いにできるといったメリットがあります。そして求めているクオリティの成果物が入手しやすいため、請負契約を利用する価値は十分にあるでしょう。
システム開発のように要件定義が難しいものの契約では、外注側と受注側との間でトラブルが起きやすいため、報酬の支払いタイミングや契約内容に認識のズレがないかを確認しておくべきです。また、仕様変更やトラブル発生時の対応方法、著作権や知的財産権の帰属について明確にしておくことも重要でしょう。
取引が円滑に進められるように、開発会社とよく検討した上で契約を交わしてください。