DXとは、デジタル技術を用いてイノベーションを起こすことです。DXの必要性が各所で叫ばれている現在、DXについての理解は欠かせません。今回は、DXとはどのような概念なのか、DXが必要な理由や日本企業の現状、進め方などを詳しく解説します。
DXとは?意味やIT化との違い
近年、DXという言葉を耳にする機会が非常に増えました。特に、企業のDX化には注目が集まっており、ビジネスを語るうえでDXへの理解は欠かせません。しかし、DXについて詳しく理解できていない方もいらっしゃるでしょう。
DXとは、デジタル技術を用いて企業に変革を起こすことです。以下では、DXとは具体的にどのような概念なのか、混同しやすいIT化との違いとともに解説します。
DXとはデジタルトランスフォーメーションのこと
DXとは、デジタルトランスフォーメーション(デジタル変革)のことです。AIやクラウドシステム、IoT、5Gなどのデジタル技術やツールを用いて、人々の生活をより便利で充実したものに変えることを意味します。
ビジネスにおいて用いられるDXとは、企業がデジタル技術を駆使して生産性を向上させたり、新たなビジネスモデルを創出したりすることです。単なる効率化ではなく、時代遅れのシステムからの脱却や旧態依然な企業体質の変革など、組織やビジネスモデル自体にイノベーションを起こすという意味合いを持ちます。
DXとIT化との具体的な違い
DXと同じ文脈で語られることが多いのが、IT化です。IT化は、ITを活用して無駄な業務を削減したり、生産性を向上させたりすることを意味します。たとえば、従来紙ベースで管理していた書類をデータ化するのは、IT化の1つです。
IT化は、既存の業務プロセスや組織体制などを維持したまま、ITによって業務を効率化することであり、意味が限定されています。IT化は、DXを推進するための手段の1つにすぎません。一方のDXはデジタル技術の活用に伴い、組織やビジネスモデルを抜本的に変革させることでIT化とは異なります。
DXを支える技術やテクノロジー
ここでは、DXを支える代表的な技術やテクノロジーとして、以下の4つを解説します。
AI(人工知能)は、人間のような知能を持ったコンピュータのことです。機械学習という技術により、入力されたデータから規則性を見出し、規則に基づいて新たなデータを分析したり、識別できたりします。高い情報処理能力を持っており、大量のデータ収集や分析が可能なのが強みです。高い情報処理能力をもとに小売業における売上予測、製造業における不良品や異常の検知、自動運転技術など、さまざまな分野での活用が進んでいます。
IoTは、Internet of Thingsの略で、インターネットに接続することで遠隔操作や自動認識などを行える情報通信システムやサービスです。IoT技術により、外出中に家電のスイッチを入れられたり、工場の状況を遠隔で監視できたりなど、利便性や生産性の向上が実現します。
クラウドは、インターネット上のリソースを必要なときに必要な分だけ利用できるという概念です。従来のオンプレミス型のサービスからクラウドサービスに切り替えることで、ソフトを入れた端末以外からも、サービスを利用できます。システムの構築や改修、運用にかかる時間を削減できるのも魅力です。
5Gは、大容量のデータを超高速で送受信できる技術のことで、2020年から実用化が始まりました。DXを推進するためには、大量のデータをスムーズに取り扱える、高速で安定したインターネット回線が不可欠です。ドローン制御や自動走行などに活用できる技術としても注目されています。
DXが求められる背景
DXの必要性が叫ばれている背景としては、不確実性の高まりが挙げられます。近年頻発している自然災害や地政学的リスク、新型コロナウイルスの蔓延に代表されるパンデミックのように、どのようなリスクが襲ってくるかわかりません。
ビジネス環境の不確実性が高まる中で、リスクに耐えて競争力を高めるためには、業務プロセスやビジネスモデル、組織体制などの変革が不可欠です。
DXが求められている今、DXに対応できなければ巨額の経済損失が発生すると予測されています。経済産業省の「DXレポート」では、DXが進まなかった場合、2025年には1年あたり12兆円もの損失が生まれる可能性がある、と指摘されました。これは「2025年の崖」と呼ばれ、問題視されています。
参考:経済産業省「DXレポート」
日本企業におけるDX推進の現状
日本においてもDXの推進が始まっていますが、いまだに浸透しているとはいえません。IPAが発行している「DX白書2023」によると、大企業の4割がDX推進に取り組んでいるのに対し、中小企業では1割強にとどまっています。
また、スイスの国際経営開発研究所が発表した「世界デジタル競争力ランキング2022」によると、日本は63ヵ国中29位という結果でした。
このように、日本は先進諸国に比べてDXが進んでおらず、特に中小企業はDXで後れををとっているのが現状です。
参考:IPA「DX白書2023 エグゼクティブサマリー」
参考:IMD「World Digital Competitiveness Ranking」
DX推進における2つの課題
日本においてDXが進まない理由としては、日本企業が抱える2つの課題が挙げられます。
DX専門部隊がいくら取り組みを進めても、上記の課題を解決できなければ、DXの推進は頓挫してしまいます。当てはまる課題がある場合は、DXを導入する前にまずは課題解決に取り組んでください。
ここでは、DX推進における2つの課題について解説します。
1.旧システムへの依存度の高さ
日本企業のDX推進を妨げているのが、レガシーシステムの存在です。レガシーシステムとは、過去の技術や仕組みで構築された古いシステムのことを意味します。
レガシーシステムを刷新しなければ、DXは進みません。しかし、日本企業の多くがレガシーシステムに依存しており、IT人材やIT投資がレガシーシステムの保守と運用に使われてしまっているのが現状です。実際「DXレポート」によると、約8割の企業がレガシーシステムを抱えており、約7割はレガシーシステムがDXを妨げていると感じています。
参考:経済産業省「DXレポート」
2.DX人材の不足
DXを推進できる専門知識を持った人材が不足しているのも課題です。日本企業の多くがDX人材の獲得に難儀している要因としては、以下が挙げられます。
- 自社にとって必要なDX人材の要件を明確化できていない
- DX人材を想定した評価制度が整備されていない
- 社員が専門知識を身につけるための学びを十分にサポートできていない
DX人材を確保するためには、採用活動を強化するだけではなく、社員のITリテラシーを高め、DXに対応できるようにすることが欠かせません。このような取り組みが不足しており、DX人材は慢性的に不足しています。
DX推進成功のための3つのポイント
前述のとおり、日本企業は旧システムへの依存や、DX人材の慢性的な不足といった課題を抱えています。DXの足枷となっている課題を克服し、DX推進を成功させるためには何が必要なのでしょうか。ここでは、以下の3つのポイントについて解説します。
- DX推進に必要なデータを収集し活用する
- DX推進に必要な手法を導入する
- 組織内でDX推進に向けた共通認識を持つ
1.DX推進に必要なデータを収集し活用する
DXを活用したビジネスの鍵となるのが、データの収集と活用です。しかし、データについて、以下のような課題を抱えているケースは少なくありません。
- データを収集したのはいいものの、どのように扱えばよいかがわからない
- どのデータを集めればよいかがわからない
- そもそもデータ収集を行う基盤がない
DX推進に必要なデータを見極め、効果的に活用できている企業は少ないのが現状です。まずは、自社のデータ活用レベルを把握し、必要なデータ収集基盤の設計や、データの活用に取り組みましょう。
2.DX推進に必要な手法を導入する
DXを推進するためには、単にIT技術を取り入れるだけではなく、環境やニーズの変化に合わせてビジネスモデルや開発要件を変化させる必要があります。そのためには、新たな開発手法や思考法の導入が欠かせません。
DX推進に必要な手法として、アジャイル開発が挙げられます。アジャイル開発では、従来の開発手法であるウォーターフォール開発と異なり、「要件定義→設計→開発→実装→テスト→運用」のサイクルを短期間で素早く行います。柔軟性が高く、要件や仕様の変更にも素早く対応できるため、DXとの相性が良いとされています。
3.組織内でDX推進に向けた共通認識を持つ
社内の一部がDX推進に向けた取り組みを行っていても、DXを成功させることは難しいでしょう。経営層に積極的に協力してもらったり、部署間で連携をとったりなど、DXは全社的に推進する必要があります。そのためには、組織内でDX推進に向けた共通認識を持ち、全員が同じ方向を向けるようにしなければなりません。
たとえばDX人材を確保するためには、自社にとって必要な人材要件の明確化や、DX人材の評価制度の整備などが不可欠です。そのためには、デジタル推進チームだけではなく、経営層や人事部などと連携する必要があります。
このように、全社でDX推進に向けた共通認識を持ち、一丸となって取り組みを進めることがポイントです。
基本的なDX導入の流れ3ステップ
ここでは、DXをゼロから導入する場合の基本的な流れを3ステップで解説します。
- 経営者がDX推進に向けたビジョンを発信する
- アナログだった情報、業務をデジタル化する
- データを蓄積し活用する
ただし、DXの導入方法に明確な正解はありません。企業ごとに組織体制や課題が異なるため、それぞれの状況に応じて適切な方法で進める必要があります。あくまでも一例として、参考にしてください。
1.経営者がDX推進に向けたビジョンを発信する
まずは、既存システムや各業務にかかっている人的コストなど、自社の現状を可視化します。そして経営者が自らの言葉で、DX推進に向けたビジョンを発信しましょう。DXを実施するためには、ビジネスモデルや組織体制など、抜本的な改革が必要です。経営者が強いリーダーシップを発揮し、トップダウンで意思決定しなければならない場面もあります。
経営者がビジョンを発信し、組織全体でDX推進に向けた共通認識を持ったうえで、DXに対応できる体制づくりを進めていきましょう。
2.アナログだった情報、業務をデジタル化する
続いて、アナログな情報や業務のデジタル化に着手しましょう。紙の帳簿から会計ソフトに切り替える、Web会議ツールを用いて商談をオンラインにするなど、業務のデジタル化を進めます。
このとき、目先の業務を効率化することのみを考え、むやみにIT化を進めてはいけません。部署ごとに使用するツールがバラバラになったり、機能が重複している複数のツールにコストが発生したりと、将来的に問題が発生する可能性があります。
長期的な視点からデジタル化する情報や業務、必要なツールを見極めましょう。
3.データを蓄積し活用する
業務のデジタル化を進めると、さまざまなデジタルデータを取得できます。このデータは、DXを進めるうえで非常に重要です。たとえば、会計データを蓄積することで、原価管理や顧客管理に活用できます。顧客属性や購買傾向といったデータを蓄積すれば、販促や新たなサービス提供などに活かせるでしょう。このようにデータを蓄積し、活用することが大切です。
データを収集して蓄積するためには、データ収集基盤を整備する必要があります。データがバラバラにならないよう、使用するITツールを一元化したり、システムを連携させたりしましょう。
日本企業におけるDX推進3つの事例
DXを進めるためには、DXで実現したいビジョンや、DX推進に成功した先の具体的なイメージを持つことが大切です。実際に、日本国内ではどのようにDXが推進されているのでしょうか。ここでは、日本企業におけるDXの事例を3つ紹介します。
- ARを活用してダウンタイムを削減
- 製造現場向けにDX支援ツールを提供
- 化学プラントのDXを推進
1.ARを活用してダウンタイムを削減
建設機械メーカーであるA社は、海外の販売代理店の修理対応に差があることに課題を感じていました。建機が故障してダウンタイムが発生すると、顧客の収益が減少してしまいます。ダウンタイムの長期化を防ぐためには、迅速かつ適切な修理対応が欠かせません。しかし、担当者の経験やスキルによって、修理対応にばらつきが生じていました。
そこで開発したのが、故障時の原因を顧客が視覚的に認識できるアプリです。ARや3Dモデルの技術が活用されており、アプリによってダウンタイムが削減し、カスタマーサポートの業務効率化も実現しました。
2.製造現場向けにDX支援ツールを提供
B社は、製造現場のDXをサポートするため、DX支援ツールを提供しています。製造業におけるDX推進は大きな課題であり、競争力を強化するためには工場のスマート化が重要です。しかし、デジタルツールの使い方がわからず、現場に定着しない、コストがネックで導入に踏み切れないなどの理由から、DXはあまり進んでいませんでした。
そこで簡単に操作でき、収集したデータを現場ですぐに活用できるツールが開発されました。その結果「設備の非稼働要因を明らかにしたい」「作業者別の生産性を把握したい」などのニーズに合わせて、必要なデータをすぐに集計して可視化できるようになったのです。
3.化学プラントのDXを推進
工場と同様に、DXの必要性が叫ばれているのが化学プラントです。少子高齢化による労働力不足や、設備の経年劣化によるリスクへの対応など、化学プラントは多くの課題を抱えています。しかし、安全の確保や条件の複雑さなどの問題から、DXを進めるのが難しいのが課題です。
C社は、社員の自発性を活かしながら、化学プラントのDXを積極的に進めています。デジタル技術を活用したイノベーションや、社員が自発的に仕事に取り組めることを重視した経営を行い、化学プラントにおけるDXの先駆者として、会社全体でDX推進に取り組んでいるのです。
以下の記事では、当社のDX支援プロジェクトについて紹介しています。あわせてご覧ください。
IT商材を扱う大手企業様における、業務プロセスのDXプロジェクト
まとめ
DXとは、デジタル技術を活用して生産性を向上させたり、組織の変革や新たなビジネスモデルの確立などのイノベーションを起こしたりすることです。単にデジタル技術を取り入れることではありません。
DXを進めるためには、旧システムへの依存から脱却し、IT人材を確保する必要があります。特に、DXに対応できる人材の確保は喫緊の課題です。IT専門人材の獲得に課題を感じている方は、ぜひとも当社にお問い合わせください。