近年、デジタル技術の進化と普及によって、あらゆる産業においてビジネスモデルや顧客との接点が大きく変化しています。
この変化に対応し、競争力を維持していくためには、デジタル技術を活用して企業の事業モデルや企業文化を抜本的に変革するDXの推進が不可欠となっています。
本記事では、DXの基礎知識から推進するメリット、進め方、成功させるためのポイントまでわかりやすく解説します。
目次
DX(デジタルトランスフォーメーション)とは、デジタル技術を活用して、企業の事業モデルやビジネスプロセス、組織・企業文化などを抜本的に変革し、業務の効率化や新たな価値創出を実現することです。
具体的には、AI、IoT、クラウドなどの先進テクノロジーを導入・活用することで、時代遅れのシステムから脱却し業務の自動化や省力化を図ったり、これまでにないサービスや顧客体験を提供したりします。
DXを推進することで、企業競争力を強化でき、ビジネスの成長を加速させることができます。
DXとIT化は似ているようで異なる概念です。
IT化とは、IT技術を活用して業務プロセスを効率化・自動化することで生産性を高めることです。
例えば、在庫管理システムや顧客管理システムの導入などが挙げられます。
一方、DXとは、デジタル技術を活用して、ビジネスモデルや組織文化を根本から変革し、業務の効率化や新たな価値を生み出す取り組みです。
単なる業務の効率化にとどまらず、ビジネスそのものの在り方を見直し、イノベーションを起こすことに主眼を置いています。
つまり、IT化が主に業務プロセスの改善に重点を置いているのに対し、DXは企業全体の変革を目指している点で大きく異なります。
IT化については、下記の記事で詳しく解説しています。
『IT化とは?推進するメリットや進め方、成功事例を詳しく解説』
DXを支える代表的な技術やテクノロジーには、下記4つが挙げられます。
AIは、日本語で「人工知能」を意味し、人間の知的な行動を人工的に再現する技術のことです。
具体的には、人間の言葉の理解や認識、推論などをコンピュータに行わせることで、人間に近い知的処理を実現します。
AIは非常に高い情報処理能力を持っているため、膨大なデータを高速に収集したり、分析したりできます。
この特性を活かし、小売業における売上予測や需要予測、製造業での不良品検知や設備の異常検知など、さまざまな分野での活用が進んでいます。
ビジネスにおけるAI活用については、下記の記事で詳しく解説しています。
IoTとは、Internet of Thingsの略で、産業用機器から自動車、家電製品まで、さまざまな「モノ」をインターネットにつなげる技術のことです。
従来はサーバーやパソコン、スマートフォンなどの情報機器だけがインターネットに接続していましたが、IoTの登場により、それ以外のあらゆるモノがインターネットとつながるようになりました。
IoTを活用すれば、従来は人が直接操作しなければならなかった場面や人の経験や勘に頼っていた場面において、自動的に作業や判断を行えます。
IoTは業務の自動化や省力化、生産性の向上などに大きく貢献するため、DXを推進する上で欠かせない技術の一つといえるでしょう。
IoTについては、下記の記事で詳しく解説しています。
クラウドとは、インターネット上のサーバーやストレージ、ソフトウェアなどのITリソースを、必要なときに必要な分だけ利用できるサービスのことです。
従来はオンプレミス型と呼ばれる自社でサーバーを購入し、自社内に設置・運用する方式が主流でした。
しかし、サーバーの初期投資や運用・保守に多額のコストがかかるほか、ビジネス環境の変化に合わせてシステムの拡張や縮小が難しいという課題がありました。
一方、クラウドを利用すれば、必要なときに必要な分だけサーバーやアプリケーションを利用できるため、初期費用や運用コストを削減できます。
クラウドは、レガシーなオンプレミス型のシステムからの脱却を後押しし、DXの実現に欠かせない重要な技術です。
オンプレミス環境からクラウド環境へ移行する、クラウドシフトについては、下記の記事で詳しく解説しています。
5Gとは、5th Generationの略で、第5世代移動通信システムのことです。
国内におけるネットワークの通信規格は、これまで1〜4G(第1〜第4世代)があり、4Gが一般的に広く普及していました。
5Gは、4Gに代わる新たな通信規格として登場し、通信速度や接続品質の大幅な向上が期待されています。
DXを推進していく上では、AIやIoTの活用が必要ですが、そのためには大量のデータを高速かつ安定的に処理できる通信インフラが必須です。
5Gはその基盤となる技術であり、DXの実現に大きく寄与すると考えられています。
DXが求められる背景として、「2025年の崖」への対応が挙げられます。
経済産業省が2018年に発表した「DXレポート」では、日本企業の多くがデジタル技術の導入に後れをとっていると指摘されました。
また、企業がDXを推進しない場合、2025年から年間で約12兆円もの経済損失が生じると試算されています。
このままでは、日本企業の国際競争力の低下や、産業の空洞化などに直結しかねません。
日本企業が2025年の崖を乗り越え、持続的な成長を遂げるためには、経営層がリーダーシップを発揮し、DXを全社的な取り組みとして推進していく必要があります。
日本においてもDXの推進が始まっていますが、いまだに浸透しているとはいえません。IPAが発行している「DX白書2023」によると、大企業の4割がDX推進に取り組んでいるのに対し、中小企業では1割強にとどまっています。
また、スイスの国際経営開発研究所が発表した「世界デジタル競争力ランキング2022」によると、日本は63ヵ国中29位という結果でした。
このように、日本は先進諸国に比べてDXが進んでおらず、特に中小企業はDXで後れををとっているのが現状です。
参考:IPA「DX白書2023 エグゼクティブサマリー」
参考:IMD「World Digital Competitiveness Ranking」
日本においてDXが進まない理由としては、日本企業が抱える2つの課題が挙げられます。
ここでは、DX推進における2つの課題について解説します。
日本企業の多くは、これまで長年にわたって使用してきた旧システム(レガシーシステム)に依存している傾向があります。
「DXレポート」によると、約8割の企業が旧システム(レガシーシステム)を抱えているという結論が発表されています。
旧システム(レガシーシステム)には、下記のような課題があります。
DXを推進するためには、旧システム(レガシーシステム)からの脱却を進め、最新の技術やシステムを導入する必要があります。
DXを推進するためには、デジタル技術に精通し、ビジネスに活用できる人材が必要です。
しかし、日本企業の多くでは、DXを推進できる専門知識を持った人材が慢性的に不足しているのが現状です。
DX人材が不足している理由は、下記3つが挙げられます。
日本企業がDXを加速するためには、これらの課題を一つひとつ克服していく必要があるでしょう。
DX人材については、下記の記事で詳しく解説しています。
企業がDXを推進するメリットは、下記の通りです。
DXによってビジネスプロセス全体を見直すことで、組織全体のムリ・ムダ・ムラを発見して取り除き、より合理的な業務プロセスへと改善できます。
これまで手作業で行っていた業務プロセスのなかには、デジタル技術を活用することで自動化できるものが多くあります。
例えば、データ入力や文書管理、経費精算などは、人手で行うと膨大な時間と手間がかかるうえ、ヒューマンエラーが起こりやすい業務です。
これらの業務をRPAなどのデジタル技術で自動化することで、業務時間を大幅に短縮できるだけでなく、ミスも減らせます。
このようなDXによる業務効率化は、特定の部門だけにとどまりません。デジタル技術を部門横断的に導入することで、全社的な業務の効率化につながります。
DX化を推進することで、場所に縛られない柔軟な働き方を実現できます。
例えば、業務システムをクラウド化することで、従来はオフィス内でしかアクセスできなかった情報に、自宅や外出先からもアクセス可能になります。
これにより、場所を選ばずに仕事ができるため、テレワークやリモートワークといった多様な働き方を導入しやすくなるでしょう。
また、DXによって柔軟な勤務形態を取り入れられるようになれば、ライフスタイルの変化に直面した社員の離職を防げる可能性があります。
結婚・出産・育児・介護などを機に退職を考えていた社員も、状況に合わせて働き方を変えられるようになるため、定着率の向上につながります。
DXを推進することで、企業競争力強化にもつながります。
デジタル技術を活用することで、市場の変化に素早く適応し、顧客ニーズに合わせた新たな価値を提供できるようになります。
例えば、IoTを活用して製品に付加価値を加えたり、サブスクリプションモデルを採用したりすることで、これまでにない収益源やビジネスモデルを創出できます。
また、ビッグデータ分析やAI技術を駆使することで、顧客の行動パターンや嗜好を深く理解できるようになります。
そうすることで、一人ひとりに最適化された商品やサービスを提案できるため、顧客満足度の向上やリピート率の増加、ロイヤルティの強化につながるでしょう。
DXの推進は、ビジネス領域の拡大や新たな収益機会の獲得にもつながるため、企業の競争力を大きく高める原動力となります。
DXを推進する際の注意点は、下記の2つです。
DXを推進するためには、新しいシステムの導入や既存システムの刷新が必要となるケースが多く、一定の初期費用が発生します。
例えば、業務システムをオンプレミス環境からクラウド環境に移行する場合、クラウドサービス利用料や移行作業にかかる人件費などが必要です。
また、IoTを活用して製造ラインの自動化を図る場合、センサーやカメラ、ロボットなどの購入費用や制御システムの開発費用などが発生します。
DXによって中長期的には生産性が向上し、コスト削減につながることが期待できます。
しかし、導入初期は一定の投資が必要になるため、費用対効果を見極めながら計画的に進めていくことが重要です。
DXは、企業の業務プロセスやビジネスモデル自体を抜本的に変革する取り組みのため、すぐに成果が出るものではありません。
具体的には、新しいシステムやデジタルツールを導入するだけでなく、それに合わせて業務フローを見直したり、社員のITスキルを向上させたりする必要があります。
特に、長年同じ業務プロセスを続けてきた企業では、DXによって変革することに対する抵抗感が強く、新しい取り組みが組織に浸透するまでに時間がかかる傾向があります。
そのため、3ヶ月、半年、1年といった中長期的なスパンで効果を見極めていく必要があるでしょう。
DXを推進し成功させるためには、下記5つを押さえておきましょう。
DXを活用したビジネスの鍵となるのが、データの収集と活用です。しかし、データについて、以下のような課題を抱えているケースは少なくありません。
DX推進に必要なデータを見極め、効果的に活用できている企業は少ないのが現状です。まずは、自社のデータ活用レベルを把握し、必要なデータ収集基盤の設計や、データの活用に取り組みましょう。
DXを推進するためには、単にIT技術を取り入れるだけではなく、環境やニーズの変化に合わせてビジネスモデルや開発要件を変化させる必要があります。
そのためには、新たな開発手法や思考法の導入が欠かせません。
DX推進に必要な手法として、アジャイル開発が挙げられます。
アジャイル開発では、従来の開発手法であるウォーターフォール開発と異なり、「要件定義→設計→開発→実装→テスト→運用」のサイクルを短期間で素早く行います。
柔軟性が高く、要件や仕様の変更にも素早く対応できるため、DXとの相性が良いとされています。
DXを成功させるためには、組織全体でDX推進に向けた共通認識を持つことが大切です。
DXは企業の事業やビジネスモデル自体を変革する取り組みのため、一部の社員だけがDXを進めても、効果は限定的なものになってしまうでしょう。
組織全体でDX推進の共通認識を持つことができれば、部門間の連携も円滑になり、DX推進にともなう課題や困難があっても、組織が一丸となって乗り越えやすくなるでしょう。
DXの推進には、一定の設備投資やシステム構築などが必要となるため、多額のコストが発生します。
特に、中小企業にとっては、DXに必要な資金を捻出することが難しいケースもあるでしょう。
そこで活用したいのが、国や自治体が提供している補助金・助成金制度です。
代表的なものに、「ものづくり・商業・サービス生産性向上促進補助金(通称:ものづくり補助金)」が挙げられます。
この補助金は、中小企業・小規模事業者等が取り組む革新的サービス開発・試作品開発・生産プロセスの改善を行うための設備投資等を支援するものです。
ものづくり補助金の対象経費は、類型によって異なりますが、主に下記のような費用が補助されます。
DXに関する補助金の最新情報は、経済産業省や各都道府県の公式サイトなどで確認できます。自社に合った補助金を見つけ、有効に活用していきましょう。
DXを成功させるためには、デジタル技術に精通し、ビジネスに活用できる専門人材が必要です。
しかし、DX人材は需要が高く、自社での採用・育成には一定の時間と教育コストがかかります。
そこでおすすめなのが、DXの支援実績が豊富なシステム開発会社への依頼です。
システム開発会社であれば、DXに精通したITコンサルタントやエンジニアが在籍しているため、自社に不足しているスキルやノウハウを外部リソースで補完できます。
ITコンサルタントとエンジニアが連携し、自社のビジネス課題や強み・弱みを深く理解した上で、戦略を立案・実行してくれるため、安心してDX化を任せられるでしょう。
ここでは、DXをゼロから導入する場合の基本的な流れを3ステップで解説します。
ただし、DXの導入方法に明確な正解はありません。企業ごとに組織体制や課題が異なるため、それぞれの状況に応じて適切な方法で進める必要があります。あくまでも一例として、参考にしてください。
DXを成功させるためには、経営層がリーダーシップを発揮し、DXの重要性や必要性を社内に強く発信することが重要です。
トップダウンでDXのビジョンや目標を示し、各部門の役割を明確にすることで、現場レベルの社員にもDXの意義が理解されやすくなります。
具体的には下記のような発信やアクションが考えられます。
このように経営者自らがDX推進の旗振り役となることで、全社的なDXへの意識改革が促進され、スムーズな導入へとつながります。
続いて、アナログな情報や業務のデジタル化に着手しましょう。
紙の帳簿から会計ソフトに切り替える、Web会議ツールを用いて商談をオンラインにするなど、業務のデジタル化を進めます。
このとき、目先の業務を効率化することのみを考え、むやみにIT化を進めてはいけません。
部署ごとに使用するツールがバラバラになったり、機能が重複している複数のツールにコストが発生したりと、将来的に問題が発生する可能性があります。
長期的な視点からデジタル化する情報や業務、必要なツールを見極めましょう。
業務のデジタル化を進めると、さまざまなデジタルデータを取得できます。
このデータは、DXを進めるうえで非常に重要です。たとえば、会計データを蓄積することで、原価管理や顧客管理に活用できます。
顧客属性や購買傾向といったデータを蓄積すれば、販促や新たなサービス提供などに活かせるでしょう。このようにデータを蓄積し、活用することが大切です。
データを収集して蓄積するためには、データ収集基盤を整備する必要があります。
データがバラバラにならないよう、使用するITツールを一元化したり、システムを連携させたりしましょう。
DXを進めるためには、DXで実現したいビジョンや、DX推進に成功した先の具体的なイメージを持つことが大切です。
実際に、日本国内ではどのようにDXが推進されているのでしょうか。ここでは、日本企業におけるDXの事例を3つ紹介します。
建設機械メーカーであるA社は、海外の販売代理店の修理対応に差があることに課題を感じていました。
建機が故障してダウンタイムが発生すると、顧客の収益が減少してしまいます。
ダウンタイムの長期化を防ぐためには、迅速かつ適切な修理対応が欠かせません。しかし、担当者の経験やスキルによって、修理対応にばらつきが生じていました。
そこで開発したのが、故障時の原因を顧客が視覚的に認識できるアプリケーションです。
このアプリケーションには、AR(現実の環境にデジタル情報を重ね合わせて表示する技術)や3Dモデルの技術が活用されています。
この技術によってダウンタイムが削減され、カスタマーサポートの業務効率化も実現しました。
B社は、製造現場のDXをサポートするため、DX支援ツールを提供しています。
製造業におけるDX推進は大きな課題であり、競争力を強化するためには工場のスマート化が重要です。
しかし、デジタルツールの使い方がわからず、現場に定着しない、コストがネックで導入に踏み切れないなどの理由から、DXはあまり進んでいませんでした。
そこで簡単に操作でき、収集したデータを現場ですぐに活用できるDX支援ツールが開発されました。
その結果「設備の非稼働要因を明らかにしたい」「作業者別の生産性を把握したい」などのニーズに合わせて、必要なデータをすぐに集計して可視化できるようになりました。
化学プラントにおいては、少子高齢化による労働力不足や設備の経年劣化によるリスクへの対応が大きな課題となっています。
これらの課題解決のためにDXを進めたいと考える企業は多いものの、化学プラントでは高い安全性の確保が求められるほか、複雑な条件設定が必要であるため、DXの実現には多くの困難がともないます。
そのようななかC社では、社員の自発性を活かしながら、化学プラントのDXを積極的に推進しています。
同社は、デジタル技術を活用したイノベーションの創出と、社員一人ひとりが能動的に仕事に取り組める環境づくりを重視しており、DXの実現に向けて多角的にアプローチしています。
以下の記事では、当社のDX支援プロジェクトについて紹介しています。あわせてご覧ください。
IT商材を扱う大手企業様における、業務プロセスのDXプロジェクト
引用元:システム開発のIC
株式会社ICでは、お客様のDX化を実現するため、ITコンサルティングからシステム開発、運用、保守管理まで、幅広いサポートを提供しています。
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コンサルティング|システム開発のIC
本記事では、DXの基本的な考え方や推進するメリット、成功のためのポイントを解説しました。
DXとは、デジタル技術を活用して企業の事業モデルや組織文化などを根本から変革し、業務の効率化や新たな価値の創出を実現することです。
DXを推進することで、業務の効率化や柔軟な働き方の実現、企業競争力の強化などが期待できます。
DXを成功させるためには、データの活用や全社的な取り組み、補助金の活用などが重要です。
自社だけでDXの推進が難しい場合は、DXの支援実績が豊富なシステム開発会社に依頼しましょう。
DX化を推進したい場合は、下記からお問い合わせください。