近年、多くの企業で業務の自動化・効率化を目的にRPAの導入が進んでいます。
しかし、RPAには得意な作業や苦手な作業があるため、自社の課題や業務内容と照らし合わせて、導入によってどのような効果が期待できるのか、しっかり検討する必要があります。
本記事では、RPAの基本的な内容や具体的な業務事例、導入するポイントを解説します。
目次
そもそもRPAとは、ロボットによる業務プロセスの自動化のことです。「Robotic Process Automation」を略した言葉であり、海外では「デジタルワークフォース」ともいわれます。また、「仮想知的労働者」や「デジタルレイバー」と表する場合もあり、特定の業務に対して人間による労働の代わりになるとして注目が集まっているものです。
RPAツールで自動化したい業務の手順などを登録したロボットを作成しておくと、人間の手を離れた状態で仕事をこなせます。このようなRPAの活用によって、業務の負担を軽減できたり業務スピードが早くなったりするという点がメリットです。
それでは、RPAが注目を集めている背景や自動化におすすめの業務、サーバ型・クラウド型・デスクトップ型の違い、AIなどの似たシステムとの違いを詳しくチェックしましょう。
RPAが注目を集めている背景には、日本が抱える労働に関する問題があります。日本では少子高齢化が進んで労働人口が減少し、人材の奪い合いになって人手不足に陥ってしまいました。
また、日本では労働生産性の低迷も問題視されています。海外と比較しても就業者1人当たりの労働生産性が低く、36ヶ国あるOECD加盟国のうちで日本は21位でした。
そのため、一定のルール内でおこなうような単純作業や反復作業をRPAに任せ、労働力不足や生産性の低迷問題を解決しようとして注目が集まっているのです。
引用:公益社団法人日本生産性本部「労働生産性の国際比較2021」
RPAには「サーバ型」や「クラウド型」、「デスクトップ型」という3つの種類があります。それぞれの種類には、RPAツールが働く場所に違いがあるのです。
サーバ型であれば、RPAツールが働く場所は自社サーバー内であり、それぞれのPCと接続させることによって自動化をおこないます。PC1台ごとにたくさんのロボットが働ける仕組みになっており、大規模展開が可能です。
クラウド型では、インターネットを使ってクラウドサーバーで作業を自動化します。導入コストが安くすみ、運用や保守において手間を必要としないものの、クラウドサーバーを使わずにパソコン内のみでおこなう作業などは自動化できません。
デスクトップ型では個人のPCごとに自動化するため、全体のPCではなく特定のPCでの作業を楽にするものです。小規模で導入しやすく、比較的安価に試せるうえに情報漏洩のリスクが低いといわれています。ただしデスクトップ型は属人化しやすいため、取り入れる際には操作方法を共有するようにしましょう。
RPAとAIは、どちらも業務の自動化に活用されますが、その特徴は異なります。
RPAは、人間が行う定型的な作業を、ルールに基づいて自動化する技術です。
例えば、データ入力や書類の整理など、決められた手順の反復作業を正確かつ迅速に処理できます。
一方、AIは機械学習により、大量のデータから自ら学習し、判断や予測を行う技術です。
画像認識、自然言語処理、音声認識など、幅広い分野で活用されており、単純な自動化だけでなく、新たな価値の創造も可能です。
つまり、RPAは定型的な作業の自動化に適しているのに対し、AIはデータ分析や意思決定の支援に適しているといえるでしょう。
RPAが得意な作業には、下記のようなものが挙げられます。
RPAは、ルールが明確に定義されている定型的な作業の自動化に適しています。
具体的には、下記のような業務が挙げられます。
このように、ルールに基づいた処理を正確に繰り返し行えるため、業務の品質向上につながります。
RPAを導入することで、異なるシステムやアプリケーション間のデータ連携を自動化できるため、業務効率が大幅に向上します。
例えば、ERPシステムやExcelに蓄積されたデータを、RPAを用いて自動的に抽出し、CRMや他の管理システムに入力する作業が考えられます。
この作業を人手で行う場合、データの抽出、加工、入力に多くの時間と手間がかかってしまうでしょう。
しかし、RPAを活用すれば、ルールに基づいて自動で処理できるため、作業時間の短縮とミスの削減が可能です。
RPAは一度設定したルールに基づいて、休憩を取ることなく24時間365日稼働できるため、膨大なデータの収集や分析を高速かつ正確に行えます。
例えば、大量のメールから必要な情報を抽出し、システムに登録する、またはメールに添付されたファイルを分類・保存するなどの作業が考えられます。
このような大量のデータを扱う作業は、人手で行うと膨大な時間と労力を要します。また、長時間の作業は集中力の低下を招き、入力ミスなどの人為的エラーが発生するリスクが高くなるでしょう。
一方、RPAを導入すれば、休憩を取ることなく常に稼働できるため、大量のデータ処理を短時間で正確に処理できます。
RPAが苦手な作業には、下記のようなものが挙げられます。
RPAは、定型的な業務の自動化には適していますが、人の判断や柔軟な対応が必要な非定型業務への対応は難しいでしょう。
例えば、新商品の企画立案やマーケティング戦略の策定など、クリエイティブな発想や複雑な意思決定が求められる業務は、RPAでは難しいでしょう。
これらの業務では、過去のデータや経験則だけでなく、市場動向や顧客ニーズの変化を踏まえた柔軟な判断が必要とされるため、RPAによる自動化は難しいです。
このようにRPAは、人の判断や柔軟な対応が求められる非定型業務には適していません。そのため、RPAを導入する際は、自動化する業務の特性を十分に見極める必要があります。
RPAは事前に設定されたルールに従って作業を自動化するため、想定外のエラーや例外処理への対応は苦手です。
例えば、RPAが処理するデータのフォーマットが突然変更された場合、そのデータを正しく読み取れず、エラーが発生する可能性があります。
また、連携するシステムがアップデートされ、インターフェースが変更された場合も、正常に動作しなくなるかもしれません。
このように、RPAは設定されたルールに従って処理を行うため、想定外の事態が発生すると、業務が停止してしまう可能性があります。
そのため、RPAを運用する際は、定期的なメンテナンスやモニタリングを行い、エラーや例外処理が発生した場合に速やかに対応できる体制を整えましょう。
RPAは、高度な認識能力を必要とする作業には向いていません。
例えば、手書き文字の読み取りや、文章の意味を深く理解して対応するような作業は難しいでしょう。
手書き文字の読み取りには、文字の形状や筆跡の特徴を正確に認識する高度な画像認識技術が必要です。また、文章の意味を理解するには、単語の意味や文脈を踏まえた自然言語処理の技術が求められます。
このように、高度な認識能力を必要とする作業は、RPAの苦手分野といえるでしょう。
RPAでできる具体的な業務には、下記のようなものが挙げられます。
経理・財務業務におけるRPAの活用事例としては、請求書処理や経費精算が挙げられます。
請求書処理では、RPAを用いて受け取った請求書を自動で読み取り、システムへの入力や支払い処理を行うことで、作業時間を大幅に短縮できます。また、支払期日のリマインダー送信も自動化できるため、支払い漏れを防止できるでしょう。
経費精算では、社員から提出された経費精算書をRPAで自動処理し、承認フローを経て支払い処理を実行できます。これにより、経費精算に関する一連の作業を効率化でき、経理担当者の負担を軽減できます。
顧客対応業務におけるRPAの活用事例としては、注文処理や定期的なフォローアップメールの自動送信が挙げられます。
注文処理では、RPAを用いてオンラインで受け付けた注文情報を自動で読み取り、在庫管理システムへの入力や出荷指示を自動化できます。
これにより、受注から出荷までのリードタイムを短縮し、顧客満足度の向上につなげられるでしょう。
また、注文確認メールを顧客に自動送信することで、注文内容の確認漏れや連絡ミスを防止できます。
定期的なフォローアップでは、RPAを用いて顧客データベースから対象となる顧客を抽出し、あらかじめ用意したテンプレートにもとづいてメールを自動送信できます。
例えば、商品購入後一定期間が経過した顧客に対して、リピート購入を促すメールを送信したり、サービス契約の更新時期が近づいた顧客に対して、更新手続きを案内するメールを送信したりといった対応が考えられるでしょう。
マーケティング業務におけるRPAの活用事例として、データ分析レポートの作成やメールマーケティングが挙げられます。
データ分析レポートの作成では、RPAを用いてWebサイトのアクセスデータや顧客の行動データを自動で収集・分析し、レポートを作成・配信できます。
これにより、マーケターはデータ収集や加工の作業から解放され、施策立案などに注力できるでしょう。
メールマーケティングでは、RPAを活用して顧客リストから対象者を抽出し、キャンペーンメールを自動送信できます。また、開封率やクリック率のトラッキングも自動化できるため、マーケターはキャンペーンの効果測定に集中できます。
ただし、RPAはあくまでルールに基づいて処理を自動化するため、戦略立案やクリエイティブな施策の立案には人の判断が必要です。
法務業務におけるRPAの活用事例として、契約書のレビューが挙げられます。
企業では、取引先との契約締結時に多数の契約書を処理する必要があり、その内容を確認するためには多くの時間と労力が必要です。RPAを導入することで、この契約書のレビュー作業を自動化できます。
例えば、契約書に「違約金」や「損害賠償」といったキーワードが含まれている場合、RPAがそれを検知し、法務担当者に通知できます。
また、契約期間や支払い条件など、あらかじめ設定した条件に合致しているかを自動で判定し、条件を満たしていない場合は、その旨を通知が可能です。
これにより、法務担当者の契約書レビューに費やす時間を大幅に削減でき、より重要な業務に注力できるしょう。
RPAを活用することで、以下のとおり5つのメリットを得られます。
単純な繰り返し作業を自動化できるようになると、労働環境の改善や労働力不足問題の解消など、さまざまな問題解決に役立つでしょう。ここからは、RPAがもたらす5つのメリットについて詳しくチェックしていきます。
RPAがもたらす大きなメリットのひとつは、作業の負担が軽減することで、労働環境の改善につながるという点です。労働者の負担となっていた面倒な作業をRPAに任せられるため、労働環境を改善できます。入力や転記作業といった今まで手作業でおこなっていた業務から離れられるため、作業工数や作業時間をカットしてより効率的な労働が可能です。
人的コストを削減できることも、RPAがもたらす大きなメリットです。作業が自動化されて人間のおこなう業務が減る分、対応人数を減らせるようになって人件費削減につながります。
RPA自体にも導入や運用、保守のためのコストが必要でしょう。しかし一般的にこれらのコストは、削減可能な人件費よりも低く抑えられるといわれています。
自動化によってヒューマンエラーを防止できることも、RPAを導入するメリットのひとつです。人の手を介して業務をおこなっていると、どれほど気を付けていたとしても作業のミスを完全になくすことは不可能でしょう。しかし、RPAの導入によって人の手を介さずにロボットによる作業がおこなわれるようになれば、いつでも正確に作業を実行できるようになります。
人為的なミスが出ない仕組みづくりができれば、チェックやフォローのためにかかっていた時間や手間もなくなるため、さらなる効率化が可能です。
RPAと労働者とを比較すると、稼働時間数に違いがあります。人間であれば労働可能な時間数に制限がありますが、RPAであれば24時間365日いつでも継続した稼働が可能です。これにより、たくさんの業務量があっても素早く処理できるようになるため、スケジュールを短縮できるでしょう。
先述のとおり人為的なミスがなくなり、チェックが不要になるため、さらに作業処理スピードの向上につながります。
RPAに任せられるような仕事は、付加価値が少ない単純作業です。このような面倒な作業をRPAに任せられるようになれば、その分労働者は人にしかできないような高度な作業に集中できるようになります。人的リソースを最適化でき、労働者は企画の検討や業務改善などの重要な業務に集中するようになるため、売り上げアップや事業の拡大が可能です。
RPAを利用することにはメリットが多いですが、デメリットもあるため、それらの両面を理解したうえで導入するかどうかを検討するようにしましょう。RPAの利用における3つのデメリットは、以下のとおりです。
これらのデメリットについて、それぞれ詳しくチェックしていきましょう。
RPAを利用した場合、作業手順として指示された内容を自動で実行し続けます。もしも指示された作業手順が間違っていたとしても、そのまま進めてしまうため注意が必要です。
指示前のテストや定期的なチェックによって、正しく作業しているかどうかを確認しましょう。また、業務や連携システムに変更があった場合には、誤作動を起こしていないかもチェックしてください。
前任の担当者がいなくなった場合には、業務のブラックボックス化につながるケースがあるため注意が必要です。作業内容や手順がわからないまま自動で動き続けてしまうということがないよう、引き継ぎをしっかりとしましょう。
RPAを導入するには、コストがかかることにも注意してください。先述のとおり、RPAを導入すると作業が自動化される分だけ対応人数を減らせるようになり、人件費を削減できます。しかし、RPAの導入や運用、保守自体にもコストが必要です。
導入によるコストパフォーマンスが良いかどうかはケースバイケースであるため、自身の企業ではどちらのほうがいいのかを計算してから導入を決めると良いでしょう。
RPAのデメリットには、急に作業が停止してしまう恐れがあることも挙げられます。例えばシステム障害やバグの発生などによって、作業が停止してしまう可能性があることに注意しましょう。また、Wi-Fiの切断やOSのアップデート、ブラウザのバージョンアップなどでも中断が起こりえます。
業務が停止するリスクを軽減するためには、十分な容量のあるサーバーを用意することに加え、日々のメンテナンスを確実におこないましょう。また、もしも停止してしまった場合のフローを作成し、あらかじめテストしておくことがおすすめです。
RPAツールを導入するポイントは、下記の通りです。
RPAを導入する際は、まず自社の業務を見直し、自動化する業務を整理することが重要です。
まずは、効率化したいと考える業務をすべて洗い出し、そのプロセスを詳細に確認・整理しましょう。
業務プロセスを可視化することで、どの業務がRPAによる自動化と相性が良いかを分析しやすくなります。
具体的には、下記の観点で業務を分析すると良いでしょう。
上記に当てはまる業務は、RPAによる自動化の効果が高いと考えられます。
このように、業務プロセスを可視化し、RPAによる自動化に適した業務を分析することで、RPAの導入をスムーズに進められるでしょう。
RPAの導入にあたっては、社員の理解や使いこなすためのトレーニングが必要です。
まず、RPAがもたらす業務効率化のメリットを具体的に説明し、理解を促します。
例えば、定型作業の自動化により、より付加価値の高い業務に注力できることや、作業時間の短縮によるワークライフバランスの改善などを説明しましょう。
また、RPAツールの操作方法や自動化のルール設定などについて、実践的な研修を行うことで、社員のRPAに対する理解度や習熟度を高められます。
RPA導入後も、業務プロセスや使用しているシステムの変更に伴い、RPAの設定を定期的に見直さなければいけません。
業務プロセスが変更された場合、RPAの自動化ルールが実際の業務と乖離してしまい、正常に動作しなくなる可能性があります。
また、連携するシステムがアップデートされた場合も、RPAの設定を修正する必要があります。
そのため、定期的にメンテナンスを実施し、RPAの設定と実際の業務プロセスや連携システムとの整合性を保つことが重要です。
引用元:システム開発のIC
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導入後もお客様が安心してRPAツールを利用できるよう、継続的なサポートを提供いたします。
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本記事では、RPAの基本的な内容や具体的な業務事例、導入するポイントを解説しました。
RPAとは、ルールが明確に定義されている定型業務を自動化できるツールのことです。経理や顧客対応、マーケティング、法務など幅広い業務で活用でき、作業負担の軽減や人的コストの削減、人為的ミスの防止などのメリットがあります。
一方で、間違った作業を自動で進めてしまうリスクや導入コストがかかるといったデメリットがあるため、導入前に十分な検討と準備が必要です。
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