クラウドコンピューティングの普及により、従来の自社サーバー運用に代わる選択肢が登場しました。AWSが提供するAmazon EC2は、中でも代表的なクラウド上の仮想サーバーサービスです。自社運用のサーバーを用意する手間が不要で、数クリックですぐに仮想サーバーを起動でき、CPUやメモリ・ストレージなどを自由に組み合わせて選択可能です。今回は、Amazon EC2の概要や料金体系・メリット・デメリットを詳しく解説していきます。
目次
Amazon EC2は、Amazon Elastic Compute Cloudの略で、AWS(Amazon Web Services)が提供するサーバーレスサービスです。AWS上に仮想サーバーを構築して自由に利用でき、従来までデータセンターで物理的なサーバーの構築を行っていたのが、Web上から仮想サーバーの構築が可能です。そのため、従来のような環境の構築作業を行うことなく、手軽に仮想サーバーの用意ができます。
AWSサーバーレスの代表「AWS Lambda」については、以下のページで詳しく解説しております。
「AWSサーバーレス入門!環境構築するためのステップを紹介」
Amazon EC2には、以下のような機能の特徴があります。
以下で各機能を詳しく解説します。
Amazon EC2のインスタンスは、クラウド上で稼働する仮想サーバーのことを指します。ユーザーは必要に応じてインスタンスを起動・停止できるため、費用を抑えられます。CPU・メモリ・ストレージなどをさまざまに組み合わせており、サーバーの即時コピーが可能です。また、 インスタンスは、仮想サーバーを数えるときの単位としても利用されます。
インスタンスにはさまざまな種類があり、「m5a.2xlarge」の場合は以下のように表記されます。
インスタンス ファミリー |
インスタンス 世代 |
追加機能 |
インスタンス サイズ |
m |
5 |
a |
2xlarge |
インスタンスファミリー・世代・追加機能・サイズの概要は以下の通りです。
インスタンスファミリー |
特性に応じて5つに分類される
|
インスタンス世代 |
数字が大きくなるほど新しい世代 基本的に新世代の方が性能が高く、価格も安い傾向のため、最新世代を利用するのがおすすめ |
追加機能 |
CPUのメーカーを変更したり、リソースを強化したりできる |
インスタンスサイズ |
vCPUやメモリ・ネットワーク帯域上限などのあらかじめ決められたセットのことnano→micro→small→medium→largeのようにサイズが大きくなる |
ただし、全てのインスタンスタイプのサイズに、nanoから用意されているわけではなく、m5の場合はlarge以降のインスタンスサイズから選択可能です。
利用目的に合わせたインスタンスタイプの選択で、リソースを最適化できコストパフォーマンスに優れたシステムを構築できます。
セキュリティグループは、インスタンスへのアクセスを制御するための仮想ファイアウォールです。 デフォルトでは全てのアクセスが遮断されている状態になっており、必要に応じたルールの設定で、EC2インスタンスへのアクセスの許可やネットワークの通信量の制御ができます。また、セキュリティグループを適切に設定すれば、インスタンスへの不正アクセスを防ぐことが可能です。
セキュアログインとは、インスタンスへのログイン情報を公開鍵暗号方式で管理し、通信の暗号化を行うことです。公開鍵暗号方式は公開鍵と秘密鍵を使い、データをやり取りする方式になります。第3者と秘密鍵を共有するわけではないため、安全性が高いのが特徴です。
適切なセキュリティ設定により、安全にログインできます。
Amazon EC2は従来の自社運用の環境と比べて、コストを大幅に削減できるだけでなく、柔軟性と拡張性が高く、リソースをすばやくできます。以下では、具体的なメリットについて詳しく見ていきましょう。
Amazon EC2を利用すると、従来の物理サーバーを調達し設置する手間が省けます。インスタンスを起動すれば数分で、すぐにサーバー環境が整うため、業務の効率化につながるでしょう。また、自運運用のようにサーバーを準備する必要がないため、監視や保守などの人的コストも削減できます。
Amazon EC2では、インスタンスの種類を柔軟に変更できます。例えば、Webサイトのアクセス数が増えた場合などに、より高性能なインスタンスタイプに変更できます。
先述したように、さまざまなインスタンスタイプが用意されており、特定の条件を満たしていれば追加料金を支払わずに、 必要なときだけメモリやCPUパフォーマンスを利用可能です。インスタンスの変更は数分で完了するため、ビジネスのニーズに合わせて機動的に対応できるのがメリットです。
Amazon EC2では、同じ設定のインスタンスを別のアベイラビリティーゾーンに簡単に作成できます。アベイラビリティーゾーンとは、複数のデータセンターを指します。異なるアベイラビリティーゾーンにインスタンスを分散させておけば、特定のアベイラビリティーゾーンで機器故障やアクセス集中が発生しても、他のアベイラビリティーゾーンのインスタンスでサービスの継続ができます。Amazon EC2を活用すると、手軽にサーバーの冗長化を図ることができ、システムの可用性を高められます。
AWSは、世界主要都市に多くのリージョン(データセンター)を持っていることが特徴です。開発やサービスを行う際は、対象の国の近くのリージョンを選ぶと、通信の遅延が小さくなり、パフォーマンスを上げられます。アカウントにより利用できるリージョンが異なります。例えば、AWSアカウントは複数のリージョンを提供するため、ヨーロッパの顧客に近づける際は、ヨーロッパでインスタンスを起動可能です。
Amazon EC2では、さまざまなOSを選択してインスタンスを起動できるため、Amazon Linux・Windows・MacOSなどが利用できます。
ただし、WindowsとAmazon Linuxでは、Linuxの方が比較的安価で構築ができるため、最初はAmazon Linuxを選択するのがおすすめです。
Amazon EC2は、従量課金制の仕組みを採用しています。つまり、実際に利用した分だけの料金を支払えば良いのです。例えば、1時間EC2インスタンスを利用した場合、利用した1時間分の料金のみが発生します。利用時間が長ければ長いほど料金は高くなりますが、逆に利用しなければ料金は発生しません。このように、実際の利用量に応じて料金が変動するため、必要以上にリソースを確保する必要がありません。ピーク時のリソース需要に合わせてインスタンスを増減させることで、無駄なコストを削減できるのがメリットです。
従来の自社所有サーバーでは、多くの負荷に耐えられるハードウェアリソースを常に確保しておく必要があり、無駄が多くなりがちでしたが、Amazon EC2なら無駄を最小限に抑えられるでしょう。
先述したように、EC2は稼働時間により課金される仕組みとなっており、柔軟な料金体系が特徴的です。しかし、使い方によっては予期せぬ高額な請求が発生する恐れもあるでしょう。以下では、Amazon EC2のインスタンス料金体系を詳しく解説していきます。
オンデマンドインスタンスは、従量課金制で利用できるAmazon EC2の基本的な料金モデルです。必要なときに必要な分だけインスタンスを起動し、利用した分の料金のみを支払います。インスタンスタイプごとに料金が決まっており、高スペックなインスタンスほど料金は高くなります。また、稼働時間に応じて課金されるため、長時間利用するほどコストがかさむ仕組みです。一時的な需要の増加などに柔軟に対応できますが、長期的に利用する場合は、他の料金モデルの方がコストを抑えられる可能性があるでしょう。
リザーブドインスタンスは、1年間または3年間の利用契約によりインスタンスを確保する方式です。 オンデマンドインスタンスに比べ、最大75%の割引価格となります。長期で確実にインスタンスを利用する場合は、リザーブドインスタンスを選ぶと大幅なコスト削減につながるでしょう。 一方で、短期間の利用ならオンデマンドの方が安価になる場合があるので、用途に合わせて適切な選択をしてください。
スポットインスタンスは、Amazon EC2のクラウドの未使用の容量を活用する方式です。通常のインスタンスと比べ最大90%の割引価格で利用できるのがメリットです。
一方で、スポットインスタンスは、以下の点に注意が必要です。
このため、スポットインスタンスは以下のようなユースケースに適しています。
スポットインスタンスの活用により、インスタンスコストを大幅に削減できる可能性があります。ただし、ユースケースを十分に検討する必要があるでしょう。
Amazon EC2を利用する際には以下のような注意点があります。
以下で各項目を詳しく見ていきましょう。
Amazon EC2はクラウド上で仮想サーバーを構築するサービスですが、ストレージやバックアップの機能は標準では備わっていません。そのため、別途用意する必要があります。
ストレージはデータの保存場所で、Amazon EC2には「EBS」と「インスタンスストア」という2種類のストレージが存在します。
料金システムや特徴などの違いを以下の表にまとめました。
EC2ストレージ |
EBS |
インスタンスストア |
料金システム |
EBSの費用が別途発生 |
無料で追加料金なし |
特徴 |
高い可用性と耐久性を持つ |
一時的なインスタンス専用 |
他インスタンスへの 付け替え |
可能 |
不可能 |
EC2インスタンスの 起動/停止 |
保持可能 |
クリアされる |
データ |
OSやDBなどの永続性や耐久性が必要なデータ |
一時的ファイル・キャッシュなど消えても問題ないデータ |
バックアップを行う際は、EC2を停止した状態でバックアップを行ってください。EC2を起動したままでのバックアップも可能ですが、データの矛盾が発生する可能性があります。バックアップの開始時間は指定できますが、終了時間は分からないので余裕を持って考えましょう。
Amazon EC2のセキュリティ設定は、ユーザー自身が行う必要があります。
EC2ではインスタンスの起動時に、ファイアウォールの役割を果たすセキュリティグループを設定します。セキュリティグループでは、インバウンドルール(受信)とアウトバウンドルール(送信)を指定でき、以下のような制御が可能です。
ルールの種類 |
内容 |
インバウンド |
HTTPやSSHなどの許可ポートを指定 |
アウトバウンド |
外部への接続を全て許可するか拒否するかを指定 |
セキュリティグループの制御のコントロールを怠ると、インスタンスが不正アクセスの危険にさらされる可能性があります。セキュリティ対策は非常に重要なため、ユーザー自身がしっかりと対応してください。
Amazon EC2の契約方法は、AWSと直接契約する場合とAWSパートナーの代理店経由で契約する場合があります。AWSではさまざまな決済方法を用意していますが、個人や小規模な企業がEC2を利用する場合は、クレジットカード決済が最も一般的です。
請求額は従量課金制なので利用リソースに応じて変動しますが、大規模な利用の場合は、請求書払いや口座振替など他の決済方法を選択できます。
Amazon EC2を利用する際のコストは、インスタンスタイプ・利用時間・データ転送量などさまざまな要因によって変動します。利用時間が長ければ長いほど、コストも高くなる仕組みです。また、AWSリージョン内の送受信は無料ですが、リージョン間やインターネット経由の送受信にはデータ転送料金がかかります。転送量が多ければ、その分コストも高くなるのです。
Amazon EC2を利用する際は、インスタンスタイプや稼働時間・転送データ量などに十分注意を払い、事前にコスト見積もりを行う必要があります。
Amazon EC2はクラウド上で仮想サーバーを提供するサービスですが、単体では機能が限られています。永続的なストレージ領域が必要な場合は、別途EBSなどのストレージサービスを利用しなければなりません。他に欲しい機能があればストレージ同様、他のAWSのサービスを組み合わせ、使いたいサービスを作ってください。このように、EC2だけでなくAWSの他のサービスを組み合わせることで、より高度なシステム構築が可能になるでしょう。
株式会社ICソリューションは、AWS認定パートナーとしての実績が豊富なシステム開発・運用サービスを提供する企業です。豊富な導入実績と高い技術力を持つエンジニアが、お客様のニーズに合わせた最適なITソリューションを設計可能です。クラウドならではの柔軟性と拡張性を活かし、コストパフォーマンスに優れたシステム構築を実現いたします。AWSの導入に関するご相談もお任せください。
ICの公式ホームページは、以下のページからご覧ください。
今回は、Amazon EC2の概要や料金体系・メリット・デメリットを解説しました。Amazon EC2は、クラウド上でサーバーインスタンスを柔軟に利用できるAWSのサービスで、サーバーの構築や運用時間の削減 ・CPUやメモリ容量の柔軟な変更 ・冗長化による可用性向上 ・従量課金制によるコスト削減などさまざまなメリットがあります。ストレージの確保やバックアップ・セキュリティ設定など、ユーザーが設定する箇所も多いですが、料金体系も3種類から選択でき、柔軟に利用できるでしょう。
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※2024年4月時点の仕様です。現在は異なっている可能性があります。