金融インフラの根幹を支える「銀行マスタ」。常に最新状態に保つ必要がありますが、その精緻化には極めて緻密かつ膨大な作業が伴います。この困難なプロジェクトを完遂したTさんに、技術的知見といかにして属人化しない運用体制を築き上げたのか、その舞台裏を詳しく伺いました。
| 課 題 |
基幹システムと周辺システムで銀行マスタのデータソースが乖離し、名称管理による表記揺れや差分抽出の困難さ、ベンダー任せとなっていた更新作業が課題となっていた。 |
|---|---|
| 解 決 策 |
管理キーをコードベースに転換し、APIとPower Automate for Desktopを組み合わせて更新作業を自動化。手順書整備で運用を標準化した。 |
| 効 果 |
誰でも迷わず運用できる体制を構築し、人的ミスを排除。データ整合性とメンテナンス性が向上し、安定した継続運用を実現した。 |
プロジェクトの背景
今回の依頼は、基幹システムと周辺システムで異なっていた銀行マスタを統合し、精緻化することでした。
基幹システムは、全国規模で管理されているデータをベースにしていましたが、既存の周辺システムは別のデータソースを基に動いており、両者のデータには大きな乖離が生じていました。さらに、基幹システム側のマスタ更新が半年ほど滞っていたことに加え、膨大な支店管理が必要な基幹システム独自のデータ整備も急務となっていました。
最大の技術的課題は、システムの構造そのものにありました。本来、データを一意に識別するためのユニークキーは「コード」で管理すべきところ、そのシステムでは「名称」で管理されていたのです。名称は重複や微細な表記揺れが発生しやすく、差分を抽出するだけで気が遠くなるような作業が予想されました。
このため、単純な比較では差異の抽出が極めて困難な状況にありました。
本プロジェクトは、マスタの精緻化と、その後の管理作業を簡略化することを目的としてスタートしました。
体制: 全体で4名でしたが、実質的なデータ分析や構築作業の多くは、Tさん一人が主導して進めました。
主な役割: データの差異分析、基幹システムAPIの調査、ベンダーとの調整、そして運用ツールの提案と構築です。
当初は4月からの運用開始を目指していましたが、あまりに差分が膨大だったため、まずは徹底的なデータ分析から着手しました。
構想・事前調査(3月): データの現状を把握し、要件を定義しました。
設計・構築(4月): 膨大なデータの差異を洗い出し、精緻化のためのルールを構築しました。この差分の洗い出しだけで、1ヶ月以上の時間を費やしました。
テスト・リリース(5月): 構築したツールとマニュアルを用い、実際の運用を開始しました。
プロジェクトのポイント
3ヶ月という限られた期間の中で、Tさんは「手作業では不可能」と判断し、論理的なアプローチの転換とテクノロジーの活用でこの難題を突破しました。
まず管理の拠り所を「名称」から「コード」へと強制的に切り替えました。 「コードをキーにしてまず大きな差分を抽出し、その上で重複する名称を洗い出す」という段階的なステップを踏むことで、膨大なデータの中に潜むルールを特定していきました。この分析作業はTさんほぼ一人で担当し、1か月以上の時間をかけて徹底的にデータの不整合を排除しました。
調査の過程で、基幹システムには「新規登録」機能はあるものの、既存データの「更新」や「削除」を一括で行う機能が無いことが判明しました。通常、これらは画面上で一件ずつ手作業で行う必要がありますが、それでは運用が回りません。そこで基幹システムが提供するAPIを活用し、PowerAutomate for Desktopでこれを制御する運用ツールを開発しました。実装にあたっては、社内の別チームで実績のあった同僚からAPI連携のノウハウを得るなど、組織の知見を結集させて「あるべき機能」を補完したのです。
プロジェクトの効果
プロジェクトは単なるデータ統合に留まらない、持続可能な運用体制を構築しました。
もともと現場には適切なマニュアルが整備されていませんでした。「知見がない作業者でも、手順書通りに進めればマスタ管理ができる」状態を目指し、詳細な手順書を作成。さらに実際に作業を実演して見せることで、スムーズな引き継ぎを実現しました。
APIを通じた自動化により、画面操作による人的ミスを排除し、データの整合性を担保しました。これによりさまざまな事態に対しても、迅速かつ正確にマスタを更新できる体制が整いました。
クライアントからは、「データの問題点が明確になり、無事に運用に乗せることができて助かった」と極めて高い評価を得ています。運用開始後も、判断に迷うケースが生じた際には適宜サポートに入るなど、現場に寄り添った伴走を続けています。
「大変だったことばかり覚えている」と振り返るTさんですが、その言葉の裏には、これまでのキャリアで培われた「現場の課題を技術で解決する」という強いプロ意識が感じられました。複雑なインフラの裏側を支えているのは、こうした緻密な分析と、それを支える技術者の探究心に他なりません。
これからもICはお客様の課題を解決するべく、技術力を磨き、研鑽に努めてまいります。